相談支援事業所の役割と課題:利用者の声を踏まえて

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障がいを持つ方々が地域で自立した生活を送るためには、適切な支援が欠かせません。その中でも、相談支援事業所は重要な役割を担っています。相談支援事業所は、障がい者やその家族の抱える様々な問題に対して、寄り添い、ともに解決策を探るパートナーとして存在しています。

しかし、現場の声を聞くと、相談支援事業所の運営には多くの課題があることが分かります。相談支援専門員の不足や業務の過重負担、サービス等利用計画の形骸化など、利用者の望む支援を提供するには、まだまだ多くの障壁があるのが実情です。

本記事では、私自身が相談支援専門員として15年以上働いてきた経験を踏まえ、相談支援事業所の役割と課題について深く掘り下げていきたいと思います。また、利用者や家族の生の声を交えながら、より良い相談支援の在り方について考察します。

障がい者福祉の現場で長年働く中で、私は相談支援の重要性を痛感してきました。障がいを持つ人々が、地域で当たり前に暮らし、社会に参加していくためには、一人ひとりに寄り添った丁寧な相談支援が不可欠です。利用者の立場に立ち、その思いに真摯に耳を傾けることから、全ては始まるのだと思います。

相談支援事業所とは

相談支援事業所の定義と目的

相談支援事業所は、障害者総合支援法に基づき、障がい者やその家族に対する総合的な相談支援を行う機関です。障がいのある人が住み慣れた地域で自立した生活を送るために、様々な福祉サービスの利用を調整し、適切な支援につなげる役割を担っています。

具体的には、以下のような目的を持っています:

  1. 障がい者の自立した生活を支援すること
    • 日常生活や社会参加に関する相談に応じ、必要な情報提供や助言を行う
    • 福祉サービスの利用に関する支援を行う
  2. 障がい者の権利擁護を図ること
    • 障がい者の権利が侵害されている場合、関係機関と連携して問題解決を図る
    • 成年後見制度の利用支援など、権利擁護に関する相談に応じる
  3. 障がい者とその家族の課題解決を支援すること
    • 障がいに関する様々な問題について、専門的な視点から助言を行う
    • 家族の抱える悩みにも寄り添い、必要に応じて家族支援を行う

このように、相談支援事業所は、障がい者やその家族に寄り添い、様々な角度から生活を支えるセーフティネットとしての機能を果たしています。

相談支援専門員の役割と求められる資質

相談支援事業所で中心的な役割を担うのが、相談支援専門員です。相談支援専門員は、障がい者やその家族からの相談に応じ、個別のニーズに合わせた支援計画を作成します。そのために、幅広い知識と高いコミュニケーション能力が求められます。

相談支援専門員の主な業務は以下の通りです:

  • インテークとアセスメント
    • 利用者との面談を通じて、生活状況や抱えている問題、ニーズを把握する
    • 心身の状況や生活環境などを多角的に評価(アセスメント)する
  • サービス等利用計画の作成
    • アセスメントを基に、福祉サービスの利用計画を作成する
    • 利用者の意向を尊重しながら、適切なサービスを組み合わせる
  • 各種サービスの利用調整
    • サービス事業所との連絡調整を行い、円滑なサービス利用を支援する
    • 定期的なモニタリングを行い、必要に応じて計画を見直す
  • 関係機関との連携
    • 医療機関、行政、教育機関など、関係機関と密に連携を取る
    • 困難ケースでは、ケア会議の開催などを通じて、多職種協働を促進する

相談支援専門員には、障がい特性や福祉制度に関する知識はもちろん、利用者に寄り添う姿勢とコミュニケーション能力が何より求められます。その人なりの生き方を尊重し、ストレングスに着目しながら、エンパワメントしていくことが重要だと考えます。

また、ソーシャルワークの価値に基づき、権利擁護の視点を持つことも欠かせません。虐待や差別など、不当な扱いを受けている障がい者の権利を擁護し、関係機関と連携して問題解決を図ることも、相談支援専門員の重要な役割です。

相談支援専門員には、以下のような資格があります:

いずれも、障がい者福祉に関する一定の知識と経験を有していることが求められます。資格取得後も、日々の実践を通じて学び続ける姿勢が何より大切だと、私は考えています。

相談支援の現状と課題

相談支援事業所の現状と利用状況

近年、相談支援体制の充実が進み、全国の相談支援事業所数は年々増加傾向にあります。平成30年度の調査によると、相談支援事業所は11,000ヶ所を超え、相談支援専門員の数は36,000人に上ります(厚生労働省, 2019)。障害者総合支援法の施行により、計画相談支援が義務化されたことも、この増加に拍車をかけています。

一方で、障がい者手帳所持者数は936万人にのぼり(内閣府, 2021)、潜在的な相談支援のニーズはさらに大きいと推測されます。地域によって、相談支援体制の整備状況には差があり、十分なサービス提供が行き届いていない地域も少なくありません。特に、中山間地域や離島など、社会資源の乏しい地域では、相談支援専門員の確保が難しく、アクセシビリティの面でも課題を抱えています。

また、サービス等利用計画の作成率は年々向上しているものの、障がい種別や地域によってばらつきがあるのも事実です。例えば、精神障がい者の計画作成率は、他の障がい種別に比べて低い傾向にあります。精神障がいに対する理解不足や、医療との連携の難しさなどが背景にあると考えられます。

こうした地域間格差や障がい種別間の格差は、相談支援の質の面でも表れています。例えば、サービス等利用計画の中には、画一的で利用者のニーズを反映していないものも見受けられます。相談支援専門員の質の担保と、標準化された支援の提供が課題となっています。

相談支援における課題と問題点

相談支援専門員として現場で働く中で、私自身も様々な課題に直面してきました。ここでは、相談支援における主要な課題として、以下の3点を取り上げたいと思います。

  1. 相談支援専門員の人材不足と負担増
    • 相談支援のニーズに対し、専門員の数が追い付いていない
    • 一人当たりの担当ケース数が多く、十分な支援が難しい
    • 書類作成などの事務作業に追われ、利用者との面談時間が取れない
  2. サービス等利用計画の形骸化
    • 利用者のニーズを十分に反映できていない計画が少なくない
    • モニタリングが形式的になりがちで、計画の実効性に乏しい
    • 事業所の都合が優先され、利用者の主体性が尊重されていない
  3. 関係機関との連携の難しさ
    • 医療、福祉、教育など、関係機関との情報共有が不十分
    • 縦割りの制度の中で、包括的な支援体制を構築するのが難しい
    • 困難ケースでは、責任の押し付け合いになることもある

特に、相談支援専門員の人材不足と負担増は深刻な問題だと感じています。障がい者の地域移行が進む中で、相談支援の重要性は高まる一方ですが、専門員の処遇はそれに見合っていないのが現状です。報酬の低さや業務の過重負担から、離職するケースも少なくありません。

また、サービス等利用計画の形骸化も看過できない問題です。本来、利用者の意向を尊重し、その人らしい生活を実現するためのツールであるはずの計画が、時として事業所の都合を優先したものになってしまう。計画を作成するだけでなく、それを実践につなげ、利用者の生活を豊かにしていく視点が求められます。

関係機関との連携の難しさも、相談支援の質を左右する大きな要因です。障がい者の抱える問題は多岐にわたるため、医療、福祉、教育、就労など、様々な分野の専門家が協働する必要があります。しかし、現状では縦割りの制度の中で、情報共有や役割分担がうまくいかないケースが少なくありません。

こうした課題に対し、相談支援専門員一人一人の努力だけでは限界があります。専門員の処遇改善や人材育成、報酬体系の見直しなど、制度的な対応が求められます。また、事業所内でのOJTや事例検討会の充実、関係機関との顔の見える関係づくりなど、現場レベルでの地道な取り組みも欠かせません。

利用者の権利を守り、その人らしい生活を支えていくために、相談支援の質を高めていくことは喫緊の課題だと考えています。行政、事業所、専門職団体など、様々なステークホルダーが連携し、知恵を出し合っていくことが求められています。

利用者の声と経験

相談支援を利用した障がい者の事例

ここでは、実際に相談支援を利用した障がい者の事例をいくつか紹介したいと思います。一人ひとりのストーリーから、相談支援の重要性と課題が見えてくるはずです。

【事例1】Aさん(40代、男性、身体障がい) Aさんは、脊髄損傷により車いすを利用しています。受傷前は会社員として働いていましたが、退職を余儀なくされました。リハビリテーションを経て在宅生活が可能になりましたが、家族の支援だけでは日常生活に不安がありました。

相談支援事業所に相談したことで、Aさんはホームヘルプサービスや訪問看護、日中活動の場などにつながることができました。ケアマネジャーと相談支援専門員が協力して、24時間の見守り体制を整えたことで、Aさんは安心して在宅生活を送れるようになりました。

「最初は何から頼めばいいのか分からなかったけど、相談支援専門員の方が一つ一つ丁寧に説明してくれたおかげで、必要なサービスを利用できるようになりました。おかげで、少しずつ自信を取り戻すことができました」と、Aさんは話してくれました。

【事例2】Bさん(20代、女性、知的障がい) Bさんは、軽度の知的障がいがあり、特別支援学校を卒業後、就労移行支援事業所に通っていました。しかし、対人関係の難しさから、就労先が見つからず、自信を失ってしまいました。

相談支援専門員は、Bさんの強みや希望を丁寧にアセスメントし、本人に合った就労先を探すことから始めました。何度か見学や実習を重ねた結果、Bさんは障がい者雇用に積極的な企業に就職することができました。職場での人間関係をサポートするジョブコーチも導入し、定着に向けた支援を行いました。

「一人で就職活動をしていたら、絶対に就職できなかったと思います。相談支援専門員の方が、私の良いところを引き出してくれて、自分に合った仕事を見つけてくれました。今は毎日が充実しています」と、Bさんは喜びを語ってくれました。

【事例3】Cさん(60代、男性、精神障がい) Cさんは、統合失調症を抱えながら、アパートで一人暮らしをしています。病状は安定していましたが、高齢となり、身体機能の低下から生活に不安を感じるようになりました。

相談支援専門員は、Cさんの思いに寄り添いながら、訪問看護や配食サービスの利用を提案しました。また、日中の生活にメリハリをつけるため、地域活動支援センターの利用も勧めました。サービス担当者会議では、Cさんの意向を中心に据えながら、支援方針を検討しました。

「正直、人に頼るのが苦手で抵抗感がありました。でも、相談支援専門員の方が私の気持ちを汲み取ってくれて、必要なサービスを少しずつ導入してくれたおかげで、安心して暮らせるようになりました。体調が悪い時は、すぐに相談できる関係が心強いですね」と、Cさんは話してくれました。

これらの事例から見えてくるのは、相談支援が障がい者の生活を支える上で、いかに重要な役割を果たしているかということです。単にサービスを提供するだけでなく、一人ひとりの思いに寄り添い、ともに考えていくプロセスが、エンパワメントにつながっているのだと感じます。

家族からみた相談支援の効果と課題

障がい者を支える家族の視点から、相談支援の効果と課題について考えてみたいと思います。

【事例4】Dさん(発達障がいの子どもを持つ母親) Dさんは、自閉症スペクトラムの息子(小学生)の子育てに悩んでいました。学校での集団生活になじめず、パニックを起こすことが度々あったためです。

相談支援事業所に相談したことで、Dさんは発達障がいに詳しい相談支援専門員につながることができました。専門員からは、療育手帳の取得方法や、利用できる福祉サービスについて情報提供を受けました。また、特別支援教育や放課後等デイサービスの利用について、学校や事業所と連携を取りながら調整してもらいました。

「一人で問題を抱え込んでいた時は、本当に苦しかったです。でも、相談支援専門員の方に出会えたことで、頼れる存在ができました。福祉や教育の制度について教えてもらったことで、必要な支援を受けられるようになり、息子も少しずつ学校に慣れてきました」と、Dさんは安堵の表情を見せました。

一方で、Dさんからは相談支援の課題についても指摘がありました。

「相談支援専門員の方は本当に熱心に対応してくださるのですが、なかなか予約が取れないんです。急な相談にも対応してもらいたいのですが、難しいみたいで…。専門員の数がもっと増えれば、もっとタイムリーな支援が受けられるのにと思います」

Dさんの指摘は、多くの家族が感じている課題を代弁しているように思います。相談支援が家族の負担軽減に大きな効果を上げている一方で、十分なマンパワーが確保できていないために、ニーズに応え切れていない現状があるのです。

家族支援の視点を重視し、柔軟で即応性の高い相談支援体制を整備していくことが求められていると感じます。家族の孤立を防ぎ、地域全体で障がい者とその家族を支えていく仕組みづくりが欠かせません。

行政、相談支援事業所、当事者団体、地域住民など、様々な立場の人たちが協働し、創意工夫を重ねながら、相談支援の充実に取り組んでいく必要があるでしょう。一人ひとりに寄り添い、家族の思いを受け止めながら、ともに歩んでいくことが何より大切だと考えています。

あん福祉会の相談支援への取り組み

ここでは、先進的な相談支援の実践を行っているNPO法人あん福祉会の取り組みを紹介したいと思います。東京都小金井市を拠点に活動するあん福祉会は、精神障がい者の地域生活支援に特化した団体であり、独自の理念に基づいた相談支援を行っています。

あん福祉会の相談支援事業の特徴

あん福祉会の相談支援事業の大きな特徴は、「当事者スタッフの配置」と「アウトリーチ型の支援」の2点です。

当事者スタッフの配置については、精神障がいの経験を持つ人材を相談支援専門員として採用しているのが特徴的です。当事者スタッフは、自身の経験を活かし、利用者の気持ちに寄り添った支援を行います。時には厳しい現実も共有しながら、リカバリーへの希望を持ち続ける大切さを伝えていきます。

「私自身、10年以上統合失調症と付き合ってきました。病気と向き合う苦しさも、再発の不安も、誰よりも分かっているつもりです。だからこそ、利用者の皆さんの小さな変化も見逃さず、そっと背中を押せるんです」と、当事者スタッフの一人は話してくれました。

もう一つの特徴が、アウトリーチ型の支援です。相談支援専門員が事業所の中だけでなく、利用者の生活の場に直接出向いていきます。例えば、ひきこもりがちな利用者の自宅を訪問したり、入院中の利用者のもとを見舞ったりします。

「精神障がいを抱える方の中には、福祉サービスにつながることへの抵抗感が強い人も少なくありません。特に、ひきこもりの状態にある場合、相談支援事業所に足を運ぶのはハードルが高いんです。だから、私たちから歩み寄って、信頼関係を築いていくことを大切にしています」と、相談支援専門員は言います。

実際、アウトリーチ型の支援により、それまで福祉サービスから遠ざかっていた人たちが、徐々に支援につながるようになったケースは数多くあります。一人ひとりに合わせたオーダーメイドの支援が、あん福祉会の相談支援の強みと言えるでしょう。

利用者の声を反映した支援の工夫

あん福祉会では、利用者の声に真摯に耳を傾け、それを支援に活かす工夫を重ねています。日頃から利用者との対話を大切にし、何を望んでいるのかを丁寧に汲み取っていく姿勢が徹底されています。

例えば、「グループホームに入居したいけど、体験の機会がない」という利用者の声から、体験宿泊の取り組みがスタートしました。グループホームでの短期間の生活体験を通じて、利用者が自身に合った居住環境を選択できるようサポートしています。

また、「地域の人たちともっと交流したい」という声からは、地域交流スペース「カフェあん」の運営につながりました。障がいの有無に関わらず、誰もが集える憩いの場として、地域に開かれた存在となっています。

「私たちは、利用者の皆さんと対等なパートナーでありたいと思っています。サービスを提供する側と利用する側という上下関係ではなく、ともに悩み、ともに喜び合える関係性を築いていきたい。そのためには、利用者の声に心から耳を澄ませることが何より大切だと考えています」と、理事長は語ります。

小さな声も見逃さず、一つ一つ拾い上げていく。そうした地道な積み重ねが、利用者の心に寄り添った相談支援の実践につながっているのだと感じます。

あん福祉会の取り組みは、相談支援のあるべき姿を示唆しているように思います。当事者の視点を大切にし、利用者主体の支援を追求する。地域に根ざし、人と人とのつながりを紡いでいく。そうした姿勢は、相談支援の質を高めていく上で、大いに参考になるはずです。

他の相談支援事業所や自治体とも連携を深め、好事例を広く共有していくことが期待されます。あん福祉会の実践に学びながら、地域の実情に合った相談支援のモデルを構築していく。そうした取り組みの積み重ねが、一人ひとりに寄り添った相談支援の実現につながるのではないでしょうか。

まとめ

本稿では、相談支援の意義と課題について、利用者や家族の声を交えながら考察してきました。

相談支援は、障がい者やその家族の地域生活を支える上で、欠くことのできない機能です。ニーズに合ったサービス利用のコーディネートだけでなく、権利擁護の視点を持ちながら、エンパワメントを支えていくことが求められます。何より、一人ひとりの思いに寄り添い、ともに歩んでいく姿勢が大切だと感じています。

一方で、相談支援専門員の不足や過重負担、計画相談の形骸化など、相談支援の質の向上に向けた課題も山積しています。報酬体系の見直しや人材育成など、制度的な対応とともに、事業所内での実践の積み重ねや関係機関との連携強化など、地道な取り組みも欠かせません。

NPO法人あん福祉会の実践からは、当事者の視点を大切にし、利用者主体の支援を徹底する大切さを学びました。アウトリーチ型の支援を通じて、支援から遠ざかりがちな人たちともつながりを築いていく。そうした創意工夫に満ちた取り組みは、相談支援の質を高めていく上で、大いに参考になるはずです。

相談支援の充実は、障がい者の権利を守り、誰もが自分らしく地域で暮らしていくために欠かせません。利用者や家族の声に真摯に向き合い、現場と制度の両面から、粘り強く取り組みを進めていく必要があります。

行政や相談支援事業所、当事者団体、地域住民など、様々な立場の人たちが力を合わせ、一人ひとりに寄り添う相談支援の実現を目指していく。そうした地道な営みの積み重ねが、共生社会の礎となるはずです。

支援を通じて、一人ひとりの物語に触れ、ともに喜び、ともに悩む。そうした関わりの中にこそ、相談支援の醍醐味があるのだと思います。利用者のエンパワメントを信じ、対等なパートナーとして伴走していく。そんな相談支援専門員でありたいと、私は日々心に誓っています。